あー、うー、弊サイト随一の放置コンテンツとなってしまったこのページだが、悪びれもせずにしれっと記事の追加を行うこととする。
さて、今回のお題はトルココーヒーである。トルココーヒーを淹れるにあたっては、柄杓型をしたジェズヴェ(cezve)にコーヒーの粉、ならびに砂糖適量を入れ、弱火にかけながら静かにかき回すのがオーセンティックなやり方だ。
もっとも、こんなことはわざわざ書かなくてもすでにご存じであろう。そして賢明な読者諸兄ならば、筆者が古典的なトルココーヒーの淹れ方を紹介しようとしているのではないことは、お察しのことと思う。
筆者はすでに紹介され尽くした当たり前の記述をすることを好まない。すでに明らかになっている事実を屋上屋を架して書き連ねるのは無駄であり、美しさに欠ける。
コンロの前に突っ立って間抜けな顔をしながらジェズヴェをかき回すというのは、あまりにも前近代的な作業である。さらに、オーセンティックな方法にはコーヒーを楽しんだのち、デミタスとジェズヴェの2点が洗い物として残される欠点もある。100ccに満たないカップのトルココーヒーにしては、作業はいかにも大がかりで無駄が多い。
本稿はこうした一連の手順を一挙に近代化し、生産性を大幅に高めることを意図したものだ。古典的なジェズヴェに取って代わる器具として着目したのは、筆者が日々尊敬の念を抱き続けている電子レンジである。
少量の食材を高効率で速やかに加熱できるという電子レンジの特性は、トルココーヒーの調理においても必ずや革命的な成果をもたらしてくれることであろう。
まず、適量のコーヒー粉および砂糖を入れたデミタスカップに水を注ぎ攪拌したのち、60秒間加熱を行った。予想どおりではあったが、特に工夫を凝らしていないこの手順では、芳しい仕上がりは得られなかった。
この手順でとりわけ目立った問題は粉末の沈殿が過度に進んでしまうことであり、トルココーヒーならではの、液体の中にいくらか粉末が混ざった感触を再現できない。こんなものをいただくぐらいなら粉末と砂糖を単純に湯で溶いた方がマシである。
「実験1」においては、粉末の沈殿によりトルココーヒーらしさが失われることがわかった。そこで、加熱を前半40秒、後半30秒の2回に分割したうえ、中途で電子レンジから取り出して攪拌する方法を試みた。
本手順の効果は絶大であり、舌触りについてはほぼトルココーヒー本来のものを再現できたと思われる。実験に用いた電子レンジでは上記の秒数で加熱したが、機材によって秒数は変動しうる。
加熱時間を変化させて実験したところでは、後半の加熱時間を前半よりも短くすることがポイントとなる模様だ。かつ、後半の加熱時間が30秒を超えないようにする点が肝要である。
さて、「実験2」においては舌触りのトルココーヒーらしさを再現することに成功した。しかしながら、香りの再現という点でオーセンティックな方法に大きく見劣りしている事実は否めない。
そこで「手順2」を若干改良し、デミタスカップにラップを装着してみた。煮沸を防止するためにラップはやや隙間を空け、ゆるめにセットした。
改良の方法としては古典的なものであるが、ラップなしの場合に比べると改良の成果は認められる。本実験において、一応の解決は得られたと認識している。
電子レンジを用いた調理においては、食品を内部の周縁部に設置した方が効率よく加熱できる。これは電子レンジの構造上マイクロ波がより集中するためであり、調理の対象が小さい場合、特にこの傾向が強まる。また、金属の装飾がなされたデミタスカップの使用は大変危険であるから、厳に慎まれたい。
一連の実験により、電子レンジを使用した簡便な手順によりトルココーヒーの調理が可能であることを明らかにした。だが、香りの再現という部分については、さらなる技術革新を求められていることを素直に認めざるを得ない。オーセンティックな方法によるトルココーヒーの調理は依然として優位を保っている。
しかしながら、今時釜戸で飯を炊く者はどれほどいるだろうか?多少食味が落ちたとしても、炊飯器の効率性はそれを補って余りあるものだ。
トルココーヒーの調理に関しても、これまで述べてきた一連の手順を実施することで、大幅な近代化を実現できよう。その近代化の成果は、風味がいくぶん低下する欠点を十分に補うものだ。「横着は発明の父、手抜きは発明の母」である。
東京にもトルコメシの店が増えてきた。WWW上においても強力なトルコメシ情報サイト「おうさる.com」が登場した。
しかし残念ながら日本のトルコメシ店において、魚介類の料理は非常に限られているのが現状である。ミディエ・ドルマスはかなりの店舗がメニューに並べているものの、そのほかの魚介類に関してはたいへん「お寒い」。
「とるこのととと」で紹介しているブルサの「アラップ・シュクリュ」をはじめ、トルコにはうまい海の料理がたくさんある。これらはわが国においても広く知られるべきものである。
長年業を煮やしてきたこのような状況は「日本におけるトルコ年」の今年、ようやく改善されるかもしれない。実は先週、昨年の記事で紹介したボスポラスハサンを訪問した。その折りに、ハサン氏お気に入りの「アジフライ」をご馳走になってきたのだが、これが非常にうまい(が、今のところメニューにはないので無理に注文しないように)。
トルコ風の揚げ魚はうまい。当然の成り行きとして魚介類の料理を何種類かリクエストしておいた。カラマル(イカ)やハムシ(イワシ)などである。
今ひとつ魚介類には興味を示していなかったハサン氏だが、俄然やる気を出したようで、近日中に提供を開始する方針が決定された。驚くべきことに、最初に登場するのは揚げ物ではなく、なんとカリデス・ギュウェジである。
東京において、チーズがたっぷり載った熱々のカリデス・ギュウェジでワインやラクを楽しめる日は近づいている。
今はカリデス・ギュウェジもあるよ。
ヨーロッパの強豪を破りようやく2002年ワールド・カップに出場したトルコ代表。長い道のりであった。厳しかったグループ・リーグ、実力を見せつけたセネガル戦、惜しくも破れたブラジル戦。いろいろあったが、日本におけるトルコ・サッカーの認知度を大いに高めたことは間違いない。そして2002年6月29日、3位決定戦を新宿のトルコ料理店「ボスポラスハサン」にて観戦した。
当日は50人以上の予約客で満席。直前に入店しようとしていた方々は予約がなかったらしく、断られていた。正直すまんかった。是非また来てくれ。水曜日と土曜日はベリーダンスのショーもあるから。
さて、店内に入ると店主ハサン・ウナル氏自ら料理の準備をしつつ来店する客に目配せしている。「仕切職人」の多いトルコ人だが、この日ハサン氏は熱が入っていた。来店する客を案内する席を細かく指示している。当日のフォーメーションは以下のようになった。
一応解説しよう。店内両翼には強力な「トルコ・サボ」を配置。トルコのユニフォーム、鉢巻きなど、ありとあらゆるグッズで武装したこの集団は強力であった。彼らが観戦の雰囲気を盛り上げてくれることは間違いない。
そしてスクリーン直前はトルコ、あるいは海外のサッカーに深いゆかりがあるとみられるいわゆる「マニア」を中心に構成している。この席は観戦には最適であるものの、のちに展開されるであろう騒動の中では落ち着いて食事を楽しめない可能性が高い。まさに「諸刃の剣」。「素人にはお勧めできない席」とも言える。
一方、せっかくこの機にトルコ飯に関心を持っていただいた方々は、スクリーンがよく見え、かつ狂喜乱舞する「マニア」ならびに強烈な「トルコ・サボ」ができるだけ迷惑をかけない位置に配置している。なるほど、ハサン氏により、なんとも絶妙な配慮がされていたのである。
前半11秒。早くも狂喜乱舞は絶頂に達した。更新されたこの記録に今日の店内の雰囲気はほぼ決定された。でかしたハカン・シュキュル。いままで「木偶の坊」呼ばわりしていてすまんかった。
前半9分、李乙容がFKからのシュート。これは敵ながらうまかった。まあ仕方がないという雰囲気。しかしトルコは期待を裏切らなかった。13分と32分にイルハンが連続してゴールを決め余裕が生まれる。あとは一瞬画面に映されたエムレ・ベロゾールの微笑みに沸いたりしながら、ゆったりとハーフタイムへ。
中継の音声を消して流されるトルコのワールドカップ・テーマソング。踊り始めるトルコ人と持ち込まれた風船が舞う。
後半は自ら交代を要求しつつも好ブロックを続けるGKリュシュテュが感動をよんだ。実はコースを絞ってシュートを打たせるディフェンスのうまさも見逃せないことに気づいている客が多かったとはいえ、店内はリュシュテュ・コールに満ちあふれた。そしてリュシュテュがゴールを守るたびに所属クラブ「フェネルバフチェ」のフラッグが広がる。
3位が決定した瞬間からは、来店した客の多くがワールド・カップのテーマソングを歌うタルカンの曲がかかるなか踊りに興じた。祝い事があるごとに踊りに興じるトルコ人が口火を切ったものの、日本人客の盛り上がりもすばらしかった。踊り疲れたころにはビールやシャンパンが振る舞われ、祝賀ムードは最高に達した。おめでとう。ここまでやってくるのが長かっただけに、トルコに関わってきた者としてはとにかく祝ってあげたい。
心残りなのは、当日は満席であったものの、狂喜乱舞のおかげでお店の営業的にはかなり厳しかったのではないか、ということである。これはボスボラスハサンだけでなく、他のトルコ飯店にも共通するかもしれない。しかし今回のワールド・カップでは、トルコ、そしてトルコ飯に対する関心が高まったことは間違いない。これからのトルコ飯の普及にも大いに期待ができそうだ。